毛皮を着た若い女性

『毛皮を着た若い女性』
ドイツ語: Mädchen im Pelz
英語: Girl in a Fur
作者ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
製作年1535年頃
種類油彩キャンバス
寸法95,5 cm × 63,7 cm (376 in × 251 in)
所蔵美術史美術館ウィーン
ティツィアーノの『ラ・ベッラ』。パラティーナ美術館所蔵。

毛皮を着た若い女性』(けがわをきたわかいじょせい、: Mädchen im Pelz, : Girl in a Fur)は、ルネサンス期のイタリアヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1535年頃に制作した絵画である。油彩。おそらくローマ教皇ユリウス2世の甥にあたるウルビーノ公爵フランチェスコ・マリーア1世・デッラ・ローヴェレ、または彼の息子グイドバルドの発注で制作された。現在はウィーン美術史美術館に所蔵されている[1][2]。またバロック期の巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスの模写がオーストラリアクイーンズランド州ブリスベンクイーンズランド州立美術館(英語版)に所蔵されている[3]

作品

ティツィアーノは黒い毛皮を直に身にまとった半裸の女性を描いている。女性は真珠ネックレス、ティアドロップのイヤリング、金のブレスレット指輪を身に着けている。毛皮は右肩を滑り落ち、身体の線を縁取るようにふくよかで丸みのある白い肌を露わにしている。肌はほんのりと赤みが差し、瞳に入れられたハイライトは彼女の視線に生気を与えている[4]。頭上で編み込まれた髪は真珠の髪飾りで飾られている。右手で毛皮を持つ女性のポーズは、古典的な彫刻「恥じらいのヴィーナス」(Venus Pudica)に基づいている。魅惑的で官能的な女性の肖像画というよりは、ペトラルカに基づく当時の恋愛抒情詩に刺激された理想の的な女性美の賛美である[1]

モデルとなった女性はウフィツィ美術館の『ウルビーノのヴィーナス』をはじめ、パラティーナ美術館の『ラ・ベッラ』(La Bella)、エルミタージュ美術館の『羽飾りのある帽子をかぶった若い女性の肖像』(Portrait of a young woman with a feather hat)の女性像と同一人物と思われる[2]。特に後者の2作品と密接な関係があり、X線撮影による科学的調査はポーズと衣装の両方で『ラ・ベッラ』の複製として絵画の制作が開始されたのちに、現在の官能的な裸婦に近い女性像に変更されたことを明らかにしている[2]

来歴

彫刻家ポンペオ・レオーニ(英語版)、第2代ヴィラメディアナ伯爵ヤン・タシス・イ・ペラルタ(英語版)のコレクションを経て、1649年までにイングランド国王チャールズ1世のコレクションに入った。チャールズ1世の処刑後の1651年に取得された[1]

影響

本作品はピーテル・パウル・ルーベンスによって模写されたティツィアーノの作品の1つである。ルーベンスはイギリスを訪れた1629年から1630年に模写したと考えられている。さらに本作品に触発され、2番目の妻エレーヌ・フールマンをモデルにして『毛皮をまとったエレーヌ・フールマン』を描いている。こちらは本作品と同じく美術史美術館に所蔵されている[5]

ギャラリー

関連作品
影響を受けた作品

脚注

  1. ^ a b c “Mädchen im Pelz”. 美術史美術館公式サイト. 2021年6月12日閲覧。
  2. ^ a b c “Titian”. Cavallini to Veronese. 2021年6月12日閲覧。
  3. ^ “Young woman in a fur wrap (after Titian), c.1629–1630”. クイーンズランド州立美術館(英語版)公式サイト. 2021年6月12日閲覧。
  4. ^ “「画家の王」ルーベンスとイタリア。その芸術形成のプロセスを読み解く”. 美術手帖公式サイト. 2021年6月12日閲覧。
  5. ^ “Helena Fourment ("Das Pelzchen")”. 美術史美術館公式サイト. 2021年6月12日閲覧。

外部リンク

ウィキメディア・コモンズには、毛皮を着た若い女性に関連するカテゴリがあります。
  • 美術史美術館公式サイト, ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『毛皮を着た若い女性』
  • クイーンズランド美術館公式サイト, ピーテル・パウル・ルーベンス『毛皮で包まれた若い女性(ティティアン後)』
世俗画
肖像画
宗教画
  • 聖母子とパドヴァの聖アントニウス、聖ロクス』(1508年頃)
  • 『十字架を担うキリスト』(1510年頃)
  • 聖家族と羊飼い』(1510年頃)
  • 新生児の奇蹟』(1511年)
  • ジプシーの聖母』(1511年頃)
  • 『キリストの洗礼』(1511年-1512年頃)
  • 『大天使ラファエルとトビアス』(1512年-1514年頃)
  • 『ノリ・メ・タンゲレ』(1514年頃)
  • サクランボの聖母』(1515年)
  • 『貢の銭』(1516年)
  • 聖母子と聖ドロテア、聖ゲオルギウス』(1516年–1518年頃)
  • 『聖母被昇天』(1516年–1518年頃)
  • 『受胎告知(トレヴィーゾ大聖堂)』(1520年頃)
  • 『キリストの埋葬(ルーヴル美術館)』(1520年頃)
  • アヴェロルディ家の祭壇画』(1520年–1522年)
  • ペーザロ家の祭壇画』(1519年–1526年頃)
  • 聖母子と聖カテリナと羊飼い』(1530年頃)
  • 『アルドブランディーニの聖母』(1532年頃)
  • 『悔悛するマグダラのマリア(パラティーナ美術館)』(1533年頃)
  • 『受胎告知(サン・ロッコ大同信会)』(1535年頃)
  • 『聖母の神殿奉献』(1534年-1538年頃)
  • シャッラの聖母』(1540年年頃)
  • 『洗礼者聖ヨハネ』(1540年-1542年頃)
  • 『荊冠のキリスト(ルーヴル美術館)』(1542年-1543年)
  • 『この人を見よ(ウィーン)』(1543年)
  • 『悔悛するマグダラのマリア(カポディモンテ美術館)』(1550年頃)
  • 『アダムとイヴ』(1550年頃)
  • 『ラ・グロリア(聖三位一体の礼拝)』(1551年-1554年)
  • 『聖ラウレンティウスの殉教』(1548年-1559年頃)
  • 『キリストの埋葬(プラド美術館)』(1559年)
  • 『ゲツセマネの祈り』(1558年-1562年頃)
  • 『受胎告知(サン・サルバドール教会)』(1559年-1564年頃)
  • アルベルティーニの聖母』(1560年–1565年頃)
  • 『悔悛するマグダラのマリア(エルミタージュ美術館)』(1565年頃)
  • 『聖マルガリタ』(1565年頃)
  • 『祝福するキリスト』(1570年頃)
  • 『荊冠のキリスト(ミュンヘン)』(1570年頃)
  • 『聖セバスティアヌス』(1570年-1572年)
  • スペインによって救済される宗教』(1572年-1575年)
  • 『ピエタ』(1575年-1576年)
関連項目
  • カテゴリ カテゴリ