SyNAPSE

開発されたSynNAPSEチップの4×4アレイを備えた回路基板。各チップは100万個の電子「ニューロン」と、2億5600万個のニューロン間 – 電子シナプスを持つ。28nmプロセス技術に基づいて構築された、54億個のトランジスタ・チップは、2014年現在[update]でこれまでに製造されたチップの中で最も多くのトランジスタ数(英語版)を備えている。

SyNAPSEは、電子ニューロモーフィック・マシン技術の開発を目的としたDARPAプログラムであり、哺乳類の脳に似た形状、機能、アーキテクチャを備えた新しい種類のコグニティブ・コンピュータを構築する試みである。このような人工脳(英語版)は、ニューロンとシナプスの総数およびそれらの接続性の観点から、神経システムのサイズに応じて知能が拡張されるロボットに使用されるであろう。

SyNAPSEは、Systems of Neuromorphic Adaptive Plastic Scalable Electronics を表すバクロニムである。この名前は生物学的ニューロン間 – 接合部であるシナプスを暗示する。このプログラムは、HRLラボラトリーズ(英語版)(HRL)、ヒューレット・パッカードIBMリサーチによって実施されている。2008年11月、IBMとその協力者はDARPAから490万ドルの資金を獲得する一方、HRLとその協力者はDARPAから590万ドルの資金を獲得した。プロジェクトの次の段階では、DARPAがIBMの取り組みにさらに1610万ドルを追加した一方、HRLはさらに1070万ドルを受け取った。2011年に、DARPAはIBMプロジェクトにさらに2100万ドルを追加し[1]、さらに 1790万ドルがHRLプロジェクトに追加された[2]。IBMのSyNAPSEチームはIBMコグニティブ・コンピューティング・イニシアチブのマネージャーである、ダルメンドラ・モダ(英語版)によって率いられている。HRLのSyNAPSEチームはHRL神経創発システムセンターのマネージャーである、ナラヤン・スリニバサ(英語版)によって率いられている[3]

SyNAPSEプログラムの初期段階では、生物学的システムで見られるものと同様の方法(ヘビアン学習(英語版))で2つのニューロン間の接続強度を適応させることができるナノメートル・スケールの電子シナプス・コンポーネントが開発された、そしてシステム全体のアーキテクチャをサポートする中核マイクロ回路におけるこれらのシナプス的コンポーネントの有用性をシミュレートした。

継続的な取り組みは、マイクロ回路開発、製造プロセス開発、シングルチップシステム開発、マルチチップシステム開発の段階を通じてハードウェア開発に焦点を当てる。これらのハードウェア開発をサポートするために、本プログラムはアーキテクチャと設計ツールの能力、設計者とハードウェア製造後の検証用に情報を与えるためのニューロモーフィック電子システムの超大規模コンピュータ・シミュレーション、そしてシミュレートされたモノと実物のニューロモーフィックシステムをトレーニングおよびテストするための仮想環境をどんどん開発することを求めている。

公開された製品のハイライト

  • クロックレス動作(英語版)(イベント駆動)、リアルタイム動作時の消費電力は70mW、電力密度は20mW/cm²[4]
  • 54億個のトランジスタが、サムスンの28nmプロセス技術で製造される
  • 100万個のニューロンと2億5600万個のシナプスが2Dアレイによって4096個のニューロシナプスコアにネットワーク化され、すべてプログラム可能
  • 各コアモジュールはメモリ、計算、通信を統合し、イベント駆動型、並列型、フォールトトレラント方式で動作する。

参加者

以下の人々および機関がDARPA SyNAPSEプログラムに参加している[5]:

ダルメンドラ・モダ(英語版)率いるIBMチームは

ナラヤン・スリニバサ(英語版)率いるHRLチームは

  • HRLラボラトリーズ(英語版): ナラヤン・スリニバサ、ホセ・クルス=アルブレヒト(英語版)ダナ・ウィーラー(英語版)タヒル・フセイン(英語版)シュリ・サティヤナラーヤナ(英語版)ティム・デロジャー(英語版)ヨンクワン・チョー(英語版)コーリー・ティボー(英語版)マイケル・オブライエン(英語版)マイケル・ユング(英語版)カール・ドッケンドルフ(英語版)ヴィンセント・デ・サピオ(英語版)チン・ジャン(英語版)スハス・チェリアン(英語版)
  • ボストン大学: マッシミリアーノ・ヴェルサーチ(英語版)スティーブン・グロスバーグ(英語版)ゲイル・カーペンター(英語版)ヨンチアン・カオ(英語版)プラヴィーン・ピリー(英語版)
  • 神経科学研究所: ジェラルド・エデルマン(英語版)アイナー・ガル(英語版)ジェイソン・フライシャー(英語版)
  • ミシガン大学: ウェイ・ユー(英語版)
  • ジョージア工科大学: ジェニファー・ハスラー(英語版)
  • カリフォルニア大学アーバイン校: ジェフ・クリチマー(英語版)
  • ジョージ・メイソン大学: ジョルジョ・アスコリ(英語版)アレクセイ・サムソノビッチ(英語版)
  • ポートランド州立大学: クリストファー・トイッシャー(英語版)
  • スタンフォード大学: マーク・シュニッツァー(英語版)
  • セット・コーポレーション: クリス・ロング(英語版)

関連項目

  • TrueNorthは(2014年半ばにお披露目された)IBM製チップであり、(ハードウェアとしては)54億個のトランジスタと4096個のニューロ・シナプス・コアを搭載し;(ソフトウェア側からは)100万個のニューロンと2億5600万個のシナプスと認識される。
  • コンピュテーショナルRAMは、フォン・ノイマン・ボトルネックをバイパス(回避)するもう1つのアプローチである。

脚注

  1. ^ “I.B.M. Announces Brainy Computer Chip”. The New York Times. (2011年8月18日). http://bits.blogs.nytimes.com/2011/08/18/ibm-announces-brainy-computer-chip/?partner=rss&emc=rss 2015年3月31日閲覧。 
  2. ^ “HRL Laboratories : HRL to Develop Neuromorphic Chip for Intelligent Machines in DARPA's SyNAPSE Program”. Hrl.com (2011年7月7日). 2015年3月31日閲覧。
  3. ^ “HRL Laboratories : Laboratories : CNES : Center for Neural & Emergent Systems”. Hrl.com (2015年2月26日). 2015年3月31日閲覧。
  4. ^ New IBM SyNAPSE Chip Could Open Era of Vast Neural Networks IBM, August 7, 2014
  5. ^ “Dharmendra S Modha's Cognitive Computing Blog: The Cat is Out of the Bag and BlueMatter”. Modha.org (2009年11月18日). 2015年4月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年3月31日閲覧。
  6. ^ “IBM Research Creates New Foundation to Program SyNAPSE Chips”. ibm.com (2013年8月8日). 2015年6月9日閲覧。

外部リンク

  • GIGAZINE
    • IBMが人間の脳を模倣して学習し環境に適応するコンピュータチップを発表  – 2011年08月19日
    • DARPAから5億7千万円の資金援助を受ける、従来の1000倍速く画像を処理可能となるコンピュータとは – 2013年09月15日、ミシガン大学: ウェイ・ユー(英語版)へのインタビュー記事
    • 世界的影響力を持つ35歳未満のイノベーター35選  – 2014年09月02日、Duygu Kuzumが16位にランクイン

以下全部英語

  • ニューロモーフィック・アダプティブ・プラスチック・スケーラブル・エレクトロニクスのシステム – DARPA公式
  • ボストン大学ニューロモーフォニクス研究室
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