竹馬

タケウマ
紀元前550年から525年頃のギリシャの遺跡から出土した土器(ピトス
竹馬や相撲など、日本の子供の遊びを描いた絵

竹馬(たけうま)とは、遊具の一種。歴史的にはに見立てたものを引きずって走る遊具、または2本の竹に足場となる横木を付けて乗り、歩行する遊具のことであるが、「竹馬」といえば後者のことを指すのが一般的になっている[1]。遊具または実用の類似の道具は世界に広く分布するが、日本アジアオセアニアのものとヨーロッパのものは起源が異なるともいわれている[1]

用途

遊戯や祭りやショーで使用される。そのほか、海渡り[2]渡河洪水対応、羊飼いが羊の群れを観るため、果物の採取や屋根の修理などの高所作業に使用される。

著名な祭り

歴史

考古学的な調査や文献で、古代ギリシアで紀元前6世紀までには竹馬のような器具が使われていたことが判明している。古代ギリシャでは、土台を意味する βάθρον (bathron)と手足を意味する κῶλον (kōlon)を組み合わせ、κωλόβαθρον (kōlobathron)と呼ばれており[6]、その使用者を κωλοβαθριστής (kōlobathristēs)と呼んだ[7]

日本

山東京伝の『骨董集』(1814年 - 1815年)では、「竹馬」とは枝葉の付いた竹を馬に見立てて縄の手綱を付け跨って走る遊戯としている[1]

一方、足場を付けた2本の棒に乗って歩行する遊具が登場する最古の文献は北静盧の『梅園日記』(1845年)といわれており、遊具の名は「鷺足」となっている[1]

一般的にはで作られることから「竹馬」(竹製の乗り物)の名で広まっているが、地域によっては竹以外の木材で作られてきたこともあり[8]、さまざまな呼称がある。そのうちの「タカアシ」や「サギアシ」は、室町時代から田楽で行われているポゴの名称でもある[9]。それら田楽の「高足」には1本の棒に乗る「一足」のほか、2本の棒に乗る「二足」があったとされ[10]、これが竹馬の由来とする見方がある[11]

幕末期の『守貞漫稿』の「竹馬馳」の項目では、竹馬は枝葉のある生竹に縄を付けて手綱にし、跨って走る遊戯だが、今世江戸でいう竹馬は七、八尺の竿に縄で横木を付けて足掛かりにして歩くものとしている[1]

1969年にはステンレススチールパイププラスチックの足場を備えた既製品も登場し、玩具店で販売されるようになった。

スティルツ

手を使わないスティルト

スティルツ(英語版)もしくはスティルトとは、ヨーロッパで発達した、脚に装着して人間をかさ上げする棒状の器具である。長いものは高さ5メートルにもおよぶ。

脚に固定する代わりに手で掴んで乗るものもスティルツに含むが、区別する際には「ペグスティルツ」(Peg stilts、訳:足場スティルツ)と「ハンドヘルドスティルツ」(Hand-held stilts、訳:手持ちスティルツ)に呼び分けられる。

ヨーロッパ(のハンドヘルドスティルツ)と日本の竹馬を比較すると、日本の竹馬は棒を手で保持する位置は胸の前で、横木は進行方向に対して後方に向けられている[1]。しかし、ヨーロッパのものは腕は下向きに伸ばして棒を脇に抱えて竹馬を背中で支えるような姿勢で保持し、横木は進行方向に対して内側に向いており、棒に挟まれる格好になる[1]。ヨーロッパでは子供が乗って遊ぶほか、ショーや祭りで使用される。また、遊具だけではなく川を渡る実用的な道具としても利用された[1]

アフリカのエチオピアに住むベンナ族(英語版)は、野生動物を避け、藪を進むためにスティルツを使うとされるが、食料や水の収集などの作業、伝統や儀式とも密接な関係を持つものとなっている[12][13]

  • スティルツ
    スティルツ
  • ヨハネスブルグ空港にて
    ヨハネスブルグ空港にて
  • アラスカ・ユーコン太平洋博覧会(en:Alaska–Yukon–Pacific Exposition)に参加した日本の東西屋(ちんどんや) 1909年
    アラスカ・ユーコン太平洋博覧会(en:Alaska–Yukon–Pacific Exposition)に参加した日本の東西屋(ちんどんや) 1909年
  • ランドの森の郵便配達
    ランドの森の郵便配達
  • ハンドヘルドスティルツに乗った相手を落とし合うナミュールの祭
    ハンドヘルドスティルツに乗った相手を落とし合うナミュールの祭
  • 竹ぽっくり
    竹ぽっくり
  • 西アフリカのドゴン族の儀式を表した人形
    西アフリカのドゴン族の儀式を表した人形
  • フランスの羊飼い
    フランスの羊飼い

中国の竹馬

中国語では「竹馬」(竹马)を「ツウマー」と読むが、日本のものとはまったく異なる遊びを指す。切り落とした1本の竹を掴み、それを馬に乗るように跨いで引きずり回すだけのものだが、日本でも当初はこれが「竹馬」と呼ばれていた。

日本で少年時代を意味する「チクバ」は、竹馬ではなくツウマーにまつわる桓温の故事が語源とされているが、原典は「彼は子供の頃から私より格下だった」という内容[14]。実際の中華圏ではこれに代わり、李白の『長干行』[15]を原典とする「青梅竹馬」(チンメイツウマー)という語句が、異性の幼馴染という意味で使われている。

なお、スティルツ自体は「踩高蹺」(ツァイガオチャオ)などと呼ばれ、一説では紀元前から演劇に用いられているという(『列子』での記述[16]による)。

脚注

  1. ^ a b c d e f g h 谷釜尋徳「竹馬の操作方法と歩行文化との関係 日本とヨーロッパとの比較を通して」『東洋法学』第53巻第1号、東洋大学法学会、2009年7月、224-209頁、ISSN 05640245、NAID 110008582834。 
  2. ^ “(復帰50年 それぞれの沖縄)竹馬で海渡り、隣の島の学校へ 働き口も少なく、進んだ過疎化:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2022年5月10日). 2024年2月19日閲覧。
  3. ^ 奇祭“竹馬の踊り” スペイン産経フォト 2016.7.27 06:00、参照:2020.3.11
  4. ^ Les échasseurs namurois, combat d’échassiers
  5. ^ “UNESCO - Namur stilt jousting” (英語). ich.unesco.org. 2024年4月23日閲覧。
  6. ^ κωλόβαθρον, Henry George Liddell, Robert Scott, A Greek-English Lexicon, on Perseus
  7. ^ κωλοβαθριστής, Henry George Liddell, Robert Scott, A Greek-English Lexicon, on Perseus
  8. ^ 原体験コラム集「作って遊ぶ-竹馬-」
  9. ^ 佐藤亮一『お国ことばを知る方言の地図帳【新版】方言の読本』 小学館、2002年、148頁、ISBN 4095041528
  10. ^ 西岡芳文(網野善彦・編) 『職人と芸能 : 中世を考える』 吉川弘文館、1994年、190頁、ISBN 9784642027052
  11. ^ 斎藤良輔「日本人形玩具辞典」(東京堂出版)257ページ
  12. ^ Addow, Mohamed (2023年8月6日). “The Stilt-Walking Tribe; Exploring the Enigmatic Bana People of Ethiopia” (英語). Medium. 2024年3月14日閲覧。
  13. ^ “Ethiopia’s Stilt Walking Tribe And What It Means - See Africa Today” (英語) (2023年7月18日). 2024年3月14日閲覧。
  14. ^ 故事成語で見る中国史・竹馬の友
  15. ^ 長干行:李白 (壺 齋 閑 話)
  16. ^ 学甲鎮 高蹺陣 台南県政府

関連項目

ウィキメディア・コモンズには、スティルツに関連するメディアがあります。
ウィキメディア・コモンズには、ハンドヘルドスティルツに関連するメディアがあります。

外部リンク

  •  近代デジタルライブラリー 東京警視本署布達 ○二月二日 - 1878年明治11年)の警察当局による、東京市街で竹馬を使用せぬよう求める通達(須原鉄二 『東京警視本署布達全書』 1886年)
典拠管理データベース: 国立図書館 ウィキデータを編集
  • ドイツ