上半平面

数学、とくにリーマン幾何学あるいは(局所コンパクト群調和解析において上半平面(じょうはんへいめん、: upper half plane)は、虚部である複素数全体の成す集合をいう。上半平面は連結開集合であり、それがリーマン球面に埋め込まれているとみなしたとき、その閉包を閉上半平面と呼ぶ。閉上半平面は上半平面に実軸と無限遠点を含めたものである。(開いた)上半平面を慣例的に HH あるいは H {\displaystyle {\mathfrak {H}}} と記す(このとき、下半平面は HH などと書かれ、対比的に上半平面を H+ などと記すこともある)。上半平面は、リー群の表現論やロバチェフスキーの双曲幾何学などの舞台として数論・表現論的、幾何学的に重要な役割を果たす。

H = { ( x , y ) R 2 y > 0 } {\displaystyle \mathbb {H} =\{(x,y)\in \mathbb {R} ^{2}\mid y>0\}}

または

H = H + = H + = { z C z > 0 } = { x + y i x , y R , y > 0 } , {\displaystyle {\mathfrak {H}}={\mathfrak {H}}^{+}={\mathfrak {H}}_{+}=\{z\in \mathbb {C} \mid \Im \,z>0\}=\{x+yi\mid x,y\in \mathbb {R} ,\,y>0\},}
H ¯ = H H = H + R { } . {\displaystyle {\bar {\mathfrak {H}}}={\mathfrak {H}}\cup \partial {\mathfrak {H}}={\mathfrak {H}}^{+}\cup \mathbb {R} \cup \{\infty \}.}
H ¯ H = H + H R { } =  Riemann sphere . {\displaystyle {\bar {\mathfrak {H}}}\cup {\mathfrak {H}}_{-}={\mathfrak {H}}_{+}\cup {\mathfrak {H}}_{-}\cup \mathbb {R} \cup \{\infty \}={\mbox{ Riemann sphere}}.}

双曲モデル

ポワンカレの上半平面モデルと呼ばれる双曲幾何のユークリッド空間内での実現がある。このモデルでは、計量

d ( z z ¯ ) | z | 2 {\displaystyle {\frac {d(z{\bar {z}})}{|\Im z|^{2}}}}

で与えられていて、実軸に近づくほどに空間が歪んでいる。双曲幾何のモデルとしての上半平面における「直線」(測地線)は、両端がそれぞれ実軸に直交する円周(直線も半径無限大であると見なして円に含める)である。上半平面を単位円板

D = { z C z z ¯ < 1 } {\displaystyle D=\{z\in \mathbb {C} \mid z{\bar {z}}<1\}}

に写す正則全単射

H z z i z + i D {\displaystyle {\mathfrak {H}}\ni z\mapsto {\frac {z-i}{z+i}}\in D}
D w 1 + w 1 w i H {\displaystyle D\ni w\mapsto {\frac {1+w}{1-w}}i\in {\mathfrak {H}}}

が存在して、上半平面モデルは単位円板モデルと呼ばれる計量

d ( z z ¯ ) ( 1 | z | ) 2 {\displaystyle {\frac {d(z{\bar {z}})}{(1-|z|)^{2}}}}

をもつ実現と互いにうつりあう。これは二つのモデルがリーマン面として解析的同型であることを意味している。これらの閉包もやはり解析同相となるので、閉上半平面はコンパクトリーマン面になる。

SL(2) の表現論

上半平面にリー群 GL(2, R) が

( a b c d ) z := a z + b c z + d  for  z H {\displaystyle {\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}}z:={\frac {az+b}{cz+d}}\quad {\text{ for }}z\in {\mathfrak {H}}}

によって(計量を保って)作用する。H は同じ作用で SL(2) の作用を受ける。このとき、z = i の固定部分群は

S O ( 2 , R ) = { ( cos θ sin θ sin θ cos θ ) } {\displaystyle SO(2,\mathbb {R} )=\left\{{\begin{pmatrix}\cos \,\theta &-\sin \,\theta \\\sin \,\theta &\cos \,\theta \end{pmatrix}}\right\}}

となるので、解析同相

H S L ( 2 , R ) / S O ( 2 , R ) {\displaystyle {\mathfrak {H}}\simeq SL(2,\mathbb {R} )/SO(2,\mathbb {R} )}

が成り立つ。さらに SL(2, Z) のような離散部分群(しばしば Γ で表される)の作用で H を割った空間(これも適当な仕方でリーマン面の構造を持つ)の上の微分形式は保型形式と呼ばれる数論的対象を定める。

関連項目

  • 半空間(英語版)